以前から、心臓病や糖尿病など全身の疾病に関わるとされる歯周病ですが、最近ではアルツハイマー型認知症に関与するという研究も報告されています。誘発される仕組みを知り、丁寧な歯磨きを習慣にするなど、入念に予防してほしいと考えています。
新型コロナウイルスという未知のウイルスと戦う今だからこそ、ご自身の健康状態をしっかり把握して正しい病気の予防に取組んでみてはいかがでしょうか。このページでは、簡単ですが歯周病の全身への影響、認知症との関係、そして対策についてご説明いたします。
【参考記事】日本経済新聞2020年4月11日カラダづくり/日本歯科大学生命歯学部 沼部幸博教授が取材に答えています。
日本経済新聞2020年4月11日・カラダづくり記事PDF>>
現在、進行した歯周病にかかっている人が増加傾向にあると言われています。
厚生労働省の2016年歯科疾患実態調査によると歯周病になったことを示す、歯と歯肉の間の溝となる「歯周ポケット(4ミリメートル以上)」がある人が前回調査(11年)より全世代で増えています。
これについて、日本歯科大学生命歯学部の沼部幸博教授は「高齢者の場合、8020運動の成果で歯が残っている人が増えたため」と説明しています。つまり、歯は残っていても歯周病にかかっている人が多いということです。
歯周病は、歯と歯肉の隙間に細菌が繁殖し、炎症を起こす疾患です。重症になると歯を支える骨が溶け歯が失われます。口腔内の症状だけでなく、肺炎、脳血管疾患、心疾患、糖尿病など様々な病気と関係することも分かってきています。
歯周病菌や歯肉で生じた炎症物質が血管を介して全身を巡ると、その過程で身体の様々な部位に影響を与え病気を誘発します。最近では、認知症との関連を示す研究も報告され始めているのです。
認知症は原因や症状でいくつかに分類されますが、歯周病の関与が指摘されているのは患者数が最も多いアルツハイマー型認知症です。
この疾患は「アミロイドβたんぱく質」が脳内に蓄積することで脳の神経細胞が損傷し、記憶や思考、行動に障害があらわれます。
19年には、「アルツハイマー型認知症の患者の脳内に、歯周病原因菌の一種ポルフィロモナス・ジンジバリス菌を確認した」という研究論文が英国で発表されています。歯周病の原因菌がアルツハイマー型認知症に関与する事は、他の研究でも示唆されているのです。
「脳には病原菌が侵入するのを防ぐ機能があるが、脳周囲に達した炎症物質がその機能を低下させる」と沼部教授は説明しています。
歯周病の原因菌とそれに伴う炎症物質により、脳内でアミロイドβたんぱく質が増える
脳神経が損傷する
アルツハイマー型認知症の発症が高まる
炎症物質は他の病気でも生じますが、歯周病もアルツハイマー型認知症に関与すると想定されているのです。
認知症予防につながる食材には、魚介類、豆類、ナッツ類など、しっかりかまないと栄養が吸収できないものが多いです。歯周病になると、こうした食材が食べにくくなってしまいます。この歯周病対策には、丁寧なブラッシングを心がけることがとても重要となります。
- 歯磨き時に歯茎から出血がないかチェック
- 歯科医院で定期的に検査
- 丁寧な歯磨きを習慣化
歯周病は予防ができる疾患です。丁寧な歯磨きを習慣づけることが、認知症の予防、その他の全身の予防になることを忘れずに取組んでいただきたいと思っています。